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サマーセミナー「市民健康講座」(since 1997)
<主催:大津医学生会・同OB会、後援:大津市・大津市医師会>

4.本研究と白血病との関わり

われわれが行ってきた研究が臨床にどのように関わっているかを最後に紹介したいと思います。白血病は造血幹細胞や造血前駆細胞の遺伝子のキズが重なることで生じます。ただ1箇所の遺伝子のキズのほとんどは細胞自身で修復します。しかし、運悪く、5-6箇所以上の複数の遺伝子のキズが修復されず残り、蓄積されてしまうことでがんが発症すると考えられています。だから、がんになる人は高齢者に多い訳です。

通常、正常の血液細胞の数は厳密に決まっています。ところが、がん化すると、制限なく増えます。しかも正常の細胞より強くて長生きです。白血病になると、骨髄中が白血病細胞で満たされ、正常の細胞が減少します。また、白血病細胞は正常の機能を持ちません。したがって、感染症や酸素不足、止血の異常を引き起こし、死に至ります。私が学生だったとき、白血病は苦しい治療をしても多くの患者さんが亡くなる死の病でした。ところが、がんを薬で治すのに最初に成功したのが、この白血病だったのです。白血病細胞を完全に殺せる抗がん剤が開発されたのですが、問題は、抗がん剤が正常の造血幹細胞をも殺してしまうことです。抗がん剤による治療で、正常の造血幹細胞が1個でも生き残れば、その細胞から分化して血液細胞を造ることができ、患者さんは完治します。ただ、血液細胞が十分に増えるのには非常に長い時間がかかり、その間に病原菌が体内に入れば死に至りますので、無菌室が開発されました。現在、抗がん剤で強力に治療して正常の造血幹細胞がすべて死んでしまっても、それを補うことで治療する造血幹細胞移植と言われる治療が可能となりました。これを骨髄移植療法と呼びます。しかし、他人の造血幹細胞を体内に入ると、敵と間違えて攻撃します。よって、攻撃されない造血幹細胞を世界中から探して入れる必要があります。まずは、攻撃の目印となる人によって異なる特定の遺伝子が近似している両親や子供、兄弟から探します。見つからない場合は骨髄バンクから探しますが、造血幹細胞を採取するのに、入院して全身麻酔で腸骨から太い注射を刺す手術を行う必要があり、必ず提供いただけるとは限りません。ところが、前に説明しましたCXCL12の機能を止める薬が海外の製薬会社によって合成され、これをG-CSFというたんぱく質と同時に投与すると、造血幹細胞の一部が骨髄に留まることができなくなり、血管から採取できることが分かりました。薬剤により、造血幹細胞の採取における負担が格段に軽減できるということです。

一方、米国では、慢性骨髄性白血病という白血病の発症の鍵となる、がん遺伝子が特定され、そのがん遺伝子の機能を止めるイマチニブという薬が開発され、このがんに著効することが知られています。しかし、そのイマチニブを使用した患者さんの体内にも白血病細胞の一部が潜んでいるということが分かりました。その場合、白血病の再発を抑えるためには薬を飲み続ける必要があります。イマチニブが殺せない白血病細胞は、白血病細胞を生み出し続ける白血病の幹細胞で、造血幹細胞と同様のニッチによって守られていると推測されています。ですから、そのニッチを構成する細胞の機能を低下させれば、イマチニブで白血病幹細胞を退治して、完治する可能性があります。直接白血病細胞を殺す治療と、ニッチをターゲットにした治療を組み合わせて、白血病を治す時代がくるのではないかと期待しています。

<質疑応答>

Q:CXCL12と造血幹細胞を試験管の中で混ぜるだけでは造血幹細胞は増殖しないと思いますが、造血幹細胞を試験管の中で増やす研究や、CAR細胞と造血幹細胞の間を結合する因子についての研究はどこまで進んでいますか?

A:CXCL12も造血幹細胞を維持するのに重要な役割を果たしていますが、他に、SCF、 thrombopoietin (以下、TPO)も重要です。しかし、ご指摘の通り、他に未知の分子が必要なのか、CXCL12、TPOおよびSCFを試験管の中で混ぜ合わせても維持できません。これができると、骨髄移植療法を行う時に、移植する造血幹細胞が少なくて済み、健康な時に自分の血液を少量保管し、がん等の病気になった時に増やして使用することができるかもしれません。CAR細胞と造血幹細胞の間を結合する因子はわかっていません。今後、生体のニッチを解明することにより、生体が使っている蛋白質を組み合わせた人工ニッチを造ることで、試験管内での造血が実現できるのではないかと思います。

(記録担当・植田)

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