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救急医療の実際
─大津市消防局を訪ねて─

ここでは実際に災害が起きた際の救急現場の実態を伺うため、大津市消防局警防課救急係主査である田辺俊司さんにお話を伺った。

防災計画

各市町村には、それぞれが従うべき役割分担や救急活動のマニュアルとも言うべき、防災計画というものがまずあり、防災計画の総まとめとしては大津市の「総合防災課」が担っている。この防災計画は地域の規模ごとに設定されており、例えば滋賀県では滋賀県の地域防災計画、大津市では大津市の地域防災計画が立てられている。以下に挙げる活動内容は、この防災計画に沿ったものである。

災害時に働く機構

地震など広域的な災害では、通信網が途絶えることがあるので確認のために必ず外に出て巡回することになっているそうだ。外へ出て初めて火の手が上がっているのが分かったり、呼び止められて初めて怪我人がいることを知ったりするという。隊員の在宅中に地震が起こり、一斉に消防局に参集するときには、参集しながら街の様子を知ることができる。「要は人海戦術」、とのことだがこの方法が一番確実のようだ。

田辺 俊司さん
田辺俊司さん

局地的な事故ならば誰かが119番に連絡して事故の発生を知ることができる。そこでどれだけ隊を要求するかという判断になってくる。大津市消防局の救急隊だけでまかなえなければ近隣の消防本部に隊を要求することになる。尼崎鉄道事故のときは、尼崎市の消防本部だけではなく兵庫県全体や大阪からも応援が来ている。消防はこのような体制をとっているのである。大津市で多数の死傷者が出た場合でも、大津市の救急車で足りなければ京都などにも応援を頼んできてもらうことになる。

中越地震での新潟のように、地震で県内の大きな範囲が被災してしまった場合は、県内の各消防本部に応援を頼もうと思ってもどこも人員を総動員しているため、十分な人員や装備を確保できないという事態になる傾向がある。そういう場合は国レベルでの連携をとることになり、各都道府県が総務省消防庁の依頼を受けて「緊急消防援助隊」というものを作り出動するという形をとるそうだ。この機構では、レスキューの救助車、消防車、救急車がそれぞれ準備される。緊急消防援助隊の活躍は去年でいうと、兵庫県の豊岡が水浸しになったとき、病院なども水に浸かってしまった時に発揮された。そこの入院患者さんを移動させるのに、豊岡の管轄する消防が動けず、そこでこの緊急消防援助隊で所定の数の救急部隊を動員してほしい、という依頼があり、病人を搬送することになったというものである。

小さなところでは近隣の消防どうし、次は県レベル、それでもだめな場合は国レベルの連携となり、総務省消防局が動いて緊急消防援助隊を組織することになる。最近では、緊急消防援助隊出動の判断も早くなり、中越地震のときも早い時期に出動していたとのことだ。ここ、大津市消防局も、福井県の河川氾濫や豊岡の浸水のときに出動している。

緊急消防援助隊を組織する時も原則がもちろんあり、県の消防本部ごとに消防や救急が何隊あるか決まっていて、単独消防本部で動くのではなく、国の方から「滋賀県隊さん、出動してください。そちらは消防部隊が○隊あるけれど、○隊出せますか」などというように依頼が来る。そして、出動が可能であれば出動するという流れになる。

これに対して近隣の応援協定は、部隊数などを定めた厳密な取り決めではなく取り決めではなく、「ここが困ったら応援に来てくださいね」「いいですよ」というレベルである。

一般に国の緊急消防援助隊は確実さがある。例えば、滋賀県で出せる消防隊の数が足りなくても他の県から、というように寄せ集める事ができ、また滋賀県で巨大な地震が起こったとしても、近隣の府県から消防隊・救急隊が来てくれるのである。どうしても単一の組織では活動範囲、活動規模に限界があるため、こうした機構を充実させることは防災の最重要項目の一つであると言える。

災害時の実際の対応

大災害の際の広域搬送が必要な場合は、阪神・淡路大震災のように道路交通が破綻する場合も多いので、空路であるヘリが主役となる。とりわけここ消防局は医療機関ではないので、災害時は消防、そしてレスキュー、救急搬送などが活動の主体となる関係上、使用が検討される機会も多い。病人や怪我人の輸送に関してヘリでの空路輸送が行われた例では、兵庫県の列車事故で怪我人を大阪まで運んだ、という事例がある。

消防局のHP(http://www.city.otsu.shiga.jp/fire/)に載っているヘリは、消防局の物ではなく滋賀県が管理する「防災ヘリ」であり、滋賀県が管理することで、滋賀県全部を活動エリアとしている。京都や大阪などでは、消防局でヘリを持っていて、それは「消防ヘリ」と呼ばれるが、内容はそう変わらない。滋賀県でも、管理は県であるが、ヘリの運用に際しては消防局員が執行している。ちなみに滋賀県が管轄するヘリコプターはわずかに一機であり、滋賀県蒲生郡日野町に配備され、「淡海」という名がつけられている。

消防局の現場での仕事にはトリアージというものもある。これは負傷者が多数いた場合に、「助けられる人から助ける」という概念である。たとえば事故現場に心臓も呼吸も止まっていて亡くなっている人がいたときに、気管挿管して蘇生法を続けるかということになると、おそらくその処置はあとになってくる。トリアージでは、重傷者から運ぶということになっているが、その現場でとても困難なのは、その現場で亡くなられているもしくは仮死状態の人になにも処置をせず、放っておくかどうか判断することである。救急隊員がそれを判断するということはとてもストレスになる。また、救命士は呼吸も心臓も止まっている人に対して、医師の指示があれば処置を行うということになっているので、災害現場で救命士が行う医療行為が活用されるかというと困難な部分もある。一人だけ瓦礫の中に埋まっている人がいて、その人が助け出されたときに心肺停止だったので指示をもらって挿管して、人工呼吸をしながら運ぶ、という状況はあり得るが、たくさん負傷者がいた場合はこういうことは難しい。

トリアージの概念では重傷者から搬送すると上記したが、心肺停止の人から運ぶのかということになると時と場合による。たとえば20人負傷者がいて、1人だけ即死であとの人がすり傷やむちうち程度であれば、誰から運ぶかというとおそらく即死の人から運ぶ。この場合、軽症の人から運んで即死の人をそのままにしておくということは絶対にないであろう。しかし尼崎の鉄道事故のことを聞いていると、多くの人がその場で亡くなられていて、また、内臓損傷が疑われるような重症の人もたくさんいたという。このような場合は、重傷者の人から、すなわち心肺蘇生法をしなくてはならない人から運ぶということが基本原則になっている。しかしこれも現場の状況によっては順番が前後することもある。あのような事故の場合は、救出しないと運べないため、奥に重症の人がいてもその人が救出できていない場合、今いる(すなわち救出されている)人から運ぶということはある。大災害の現場では非常に難しく、厳しい判断が必要になるということである。

ルールでは、トリアージの色分けでは黒が死亡、赤色が重症、黄色が中程度、緑色が軽症であり、赤色(重症者)から順に運ぶ事になっている。負傷者が多いときは緑色の人は運ばないということもある。トリアージの第一次判断は消防がすることになるが、この判断は早く行うことが必要なので、初めは単純なやり方で分けるそうだ。隊員がよく使う方法は、「気分悪い人こっちへ来てください」と言って、歩いてこられる人は“緑”とする方法である。ここでのまず初めの判断基準は、「歩けるか歩けないか」ということであり、歩けない人は、黄色か赤という判断になる。歩ける人はいったん緑として、その後、呼吸回数が30回以上、脈がすごく早い、血圧が下がっているなどという異常があれば、緑から黄色に上げたりするということはある。歩けない人に関しては、これもいくつかの例外があるが、原則としてショック症状などがあれば赤であるし、単に足の骨を折っていて歩けないというのであれば黄色となる。このように、初めは歩けるか歩けないかという単純な分け方をし、バイタルサインをチェックどうこうというのは次の段階になる。正確に症状が診断できるのならともかくだが、実際には負傷者がたくさんいるときに、初めから一人一人血圧を測っていたのでは時間がかかりすぎるためである。

消防局ではほぼ医療行動は認められないが、救急の際の人工呼吸や除細動器(AED)の使用は一般人でも認められているため、もちろんここ消防局でも訓練を課している。取材に伺った我々も、実際に体験させていただいた。

災害が起こる前段階での準備

当然であるが、災害が起こる前段階での準備では、実際に災害や事故が起こったときにどう動くか、どういう体制をとるかというマニュアルを決めておくことが何より大切である。これは病院でも同じで、どこに簡易ベッドをおくか、負傷者はどこにいてもらうのか、負傷者が大量に流れ込んできたときにトリアージゾーンはどこに作るのか、などを決めておかねばならない。今回の特集でも一部を扱ったが、市民病院や大津日赤ではこのようなことがちゃんと決められている。その上で訓練をし、備えをしておくということである。

AED
AED

また、心構えとして重要なことは突発重大事故にしても地震にしても、非常事態であることである。システムというものは非常事態を前提に決めているものではないので、非常事態に陥ったときのルールを決めておくということはとても大切である。災害時は、なにが起こるかわからない。去年福井県の豪雨の時は、救急車で病人を運んでいたらあまりの水に救急車が浮いてきたのでヘリに受けついだこともあるそうだ。また、豊岡でも、119番通報を受けて車で向かったら、5分と経たないうちに車が走れなくなったので、水の中を歩いてその家まで行ったという話がある。非常事態なので、通常の考えでは通用しないのである。地震で道路が走れなかったら歩いていくより仕方がない。

そうした意味で実は災害で大きな力を発揮するのは自衛隊と言える。自衛隊は道なきところに道を作る。つまり、自衛隊はどのような悪状況であってもそれを切り抜けるための訓練を受け、また充分な装備を有しているので、非常時にはもっとも柔軟な対応が可能なのである。福井でも豊岡でも自衛隊は派遣されており、また緊急消防援助隊にも自衛隊が合流すること、さらに警察・消防・自衛隊と関係機関で調整本部を作り、そこから災害現場に派遣されることもある。

感想

大津市消防局
大津市消防局

今回大津市消防局に伺い、その仕事の幅広さや重要性を改めて認識することができた。大津市消防局は、国レベルにはない地域密着性とともに近隣との連携体制も兼ね備えており、大津市にとってかけがえのない組織と言える。大津市のみならず他の市町村でも消防局を中心にこのような仕組みがとられているからこそ、災害時に各地域で国に任せきりでない迅速で丁寧な対応がとれるのだと思う。また、実際にAEDを使わせていただいたり消防隊員の心情をお聞きしたりする中で、消防局を少し身近に感じることができた。最後に、取材に協力していただいた大津市消防局の皆様、終始朗らかにお話をしてくださった田辺主査、本当にありがとうございました。

まとめ

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